紫陽花ロマンス
注文を聞きにきた店員さんが何かの応募用紙だと言って、紙とペンを置いて行った。
「日帰りバス旅行が当たるんだって、応募してみる?」
まじまじと紙を見ていた大月さんがペンを取る。
「どうせ当たらないからいいよ」
「出してみなきゃわからないよ、世界遺産とお土産つきだって」
やっぱり、大月さんはすごく単純な人だ。
「一緒に出そう。ペアだから、どっちかが当たったらいいね」
ちょっと意味深なことを言いながら、大月さんは私にペンを渡して書き始める。
「当たらないよ、私、運悪いから……」
「ダメだよ、当たると思って出さなきゃ」
そんなこと言われても……今まで何かに当たったことなんてない。渋々書いていると、
「あれ?」
と、大月さんが声を上げた。
私の紙を覗き込んで、目を丸くしてる。
「萩野さんの誕生日って七夕? 今度の日曜じゃない」
「うん、覚えやすいでしょ?」
照れ隠しに笑ってみせた。
「何か、プレゼントさせてよ」
「いらないよ、誕生日なんて喜ぶ年じゃないし」
素っ気なく返すけど、胸がざわめき始める。
いけない、私は大月さんと付き合ってるわけじゃない。これ以上関わったら、後に引けなくなりそうで怖い。