紫陽花ロマンス
食事を終えて店内へ。
特に当てはないけど目新しい店を見ながら通路をぶらぶらしたり、商品を見ているだけでも楽しい。
大月さんとたわいない話をしながら。
全部の店を回るのは無理かもしれないと思い始めた頃、一軒の店が目に留まった。
通路に面した店の入口、明るい照明に照らされた店内に傘が飾られている。色とりどりの花を咲かせたように。
「入ってみようよ」
見惚れる私に告げて、大月さんが店に入っていく。私も後を追いかけた。
傘の専門店なんて久しぶりに見た。というより、やっと見つけたという印象。
ぐるりと見回して、私は折り畳み傘を探し始めた。色も形もいろんな種類があって、見ているだけでも楽しい。
「傘、好きみたいだね」
大月さんがくすっと笑う。
「うん、好きかも」
つい答えてしまった。
恥ずかしいけど、本当に嬉しいんだから仕方ない。ここなら、気に入る折り畳み傘があるかもしれないと思えた。
「この色、僕が壊した傘の色に似てるかも」
隣で大月さんが指差した。
淡いピンク色を帯びた紫色の折り畳み傘。滑らかな曲線を描いた柄と袋に施された細やかな刺繍が綺麗で、一目で惹かれてしまった。
壊れた傘にはなかった装飾に、胸がキュンキュンしてしまう。