紫陽花ロマンス
手に取ると、若い女性の店員さんがやってきて丁寧に開いてくれた。
もう、吸い込まれてしまいそうだった。いや、吸い込まれてしまいたいと思った。照明を浴びた優しい色が、眩くて目の前がくらくらする。
こんな色の紫陽花が一面に咲いていたら、どんなに綺麗だろう。想像するだけで、胸が高鳴る。
「これ、ください」
どこかへ飛ばされてしまいそうな私を引き止めたのは、大月さんの声。
唖然とする私を置いてきぼりに、店員さんと話している。
何なの?
どういうこと?
私の隣に戻ってきた大月さんは、にこにこしながら店内を見回している。
「この色も綺麗だね、でも男には無理だなあ……いいなあ、女の子は綺麗な色を持てるから」
なんて言いながら、何事もなかったように。
しばらくして、店員さんが紙袋を持ってきた。大月さんが受け取ると、店員さんはにこやかな笑顔で私たちを見送ってくれた。
「この傘屋さん、以前は月見ヶ丘駅前にあったんだって、ここができた時に移ってきたらしいよ」
大月さんが歩きながら話してくれるけど、私はそれどころじゃなかった。
大月さんの持ってる紙袋の中に、あの傘があると思うと落ち着かない。胸のざわめきを悟られないように、必死だった。