紫陽花ロマンス
「お茶でもしようか」
と大月さんが言うから、店内案内図を広げた。店舗数が多すぎて、しかも変わった名前だったりして、どれがカフェだかわからない。
聞き慣れたカフェのマークを見つけて、ここにしようと指したら大月さんが違うところを指している。
「屋上庭園があるみたい、行ってみる?」
「うん」
と返したけど、雨降ってたりして……
カフェでコーヒーをテイクアウトして、屋上へと向かう。さすがに屋上に行く人は少ないらしい。屋上行きのエスカレーターには誰も乗っていない。
梅雨の晴れ間の日差しは、どうしてこんなにもきらきらとして眩いのだろう。
屋上の庭園の草木の葉はぴんと張っていて、濃い緑が生き生きとしている。程よく水分を含んだ花の色は艶やかで、見ているだけで元気になれそうになる。
庭園には人工の池や小川があって、流れる水音が耳に心地よく響いてくる。
手入れされた花壇の一角に、大きな花をたわわに咲かせた紫陽花を見つけた。両手を広げても抱えられないほど、大きく逞しく生い茂っている。
花の色は淡いピンク色がかった紫色。
大月さんの持ってる紙袋の中の傘の色によく似てる。
「きれい……」
溜め息とともに、声が漏れた。