紫陽花ロマンス
庭園をひと回りして、ベンチに腰を下ろした。大月さんと私の間には、握り拳ひとつ分の距離。
庭園を眺めながらアイスコーヒーを飲む私の視界に、紙袋が飛び込んだ。
「少し早いけど、誕生日プレゼント」
紙袋の向こうから、大月さんがにこりと笑う。
紙袋の中には、一目惚れした傘。結構値段が高かったのも知ってる。本当はすごく欲しかったから嬉しい。
でも、私は大月さんの彼女でもない。プレゼントなんてもらえるような親しい関係じゃない。私たちは、あくまでも傘を壊した人と壊された人。
もし受け取ってしまったら、それだけじゃ済まなくなりそうで怖い。
「本当に、もらってもいいの?」
「もちろん、これは萩野さんのために生まれてきた傘なんだから」
いやいや、生まれてきたというのは大袈裟だと思う。
いつまでもためらっていると、大月さんは私の手からコーヒーのカップを取り上げた。それをベンチに置いて、代わりに紙袋を握らされる。
「ほら、受け取って。さっきみたいに笑ってよ」
「ありがとう、本当にありがとう」
声が震えた。
さっきみたいに……って言われても、私はどんな顔で笑ってたんだろう。思い出そうとしたら、頬を滴が流れ落ちていく。