紫陽花ロマンス


私は、なんて弱いんだろう。


両手で紙袋を握り締めて、顔の前に翳した。せめて隠れているつもりだったけど、バレてないはずない。


「もう泣かないで、笑ってる方が可愛いから」


ふわりと頭に手が触れた。
ゆっくりと優しく撫でてくれる。いつも私が光彩を寝かしつける時みたいに。


それだけなのに、胸が温かくなって気持ちが解きほぐされる。


光彩も、
こんな気持ちなのかなあ……


「僕は、笑ってる萩野さんが好きだよ」


『好き』という言葉が、胸の奥深くに沈んでいく。じんと温もりを放ちながら。


そっと私に渡してくれたのは、以前貸してくれたハンドタオル。大月さんは私が落ち着くまで、ずっと撫でていてくれた


「あれ? 曇ってきた? 雨が降るかもしれない」


大月さんの声に顔を上げたら、空の端から黒い雲が近づいているのが見えた。変な風も吹いてきたし、ひと雨来そうな感じ。


「やっぱり、私が雨女だから……雨は嫌い」


ボヤくと、大月さんは口角を上げた。


「僕は嫌いじゃないよ、むしろ雨に感謝してるぐらいだから。さあ、店内に戻ろう」


嫌いじゃないのは雨のことだろうに、私は都合よく自分のことにすり替えようとしてしまっていた。



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