紫陽花ロマンス
店内に入って間もなく、お腹の底に響く轟音が耳に届いた。雷が鳴り出したらしい。
店舗に飛び込んできたらしき人たちが、きゃあきゃあ騒いでる。髪や服はびちゃびちゃだから、すごい量の雨が降ってきたんだろう。
出入口付近を通りかかったら、閃光が目に飛び込んできた。続いてお腹に響く不快な音に、思わず顔を背けた。
雨は嫌いだけど、雷はもっと嫌い。
察してくれたのか、大月さんは出入口から離れるように足を速める。
「もう梅雨明けかな、雷鳴れば梅雨明けるって言うから。帰る頃には止んでるよ、もう少し見て回ろう」
大月さんは光彩のお迎えのことも心配してくれていたらしい。いろいろと気にしてくれてる大月さんは頼もしい。
大月さんとの拳ひとつ分の距離が、ほんの僅かに縮まった気がする。
もしかすると大月さんは出かけようと誘ってくれた時から、ここに来るつもりだったんじゃないか。
ここに傘の専門店があると調べたのか、知っていて私を連れてきたんじゃないか。折り畳み傘を買うために。
だとしたら大月さんは、やっぱりいい人だ。
そして、もうひとつ気づいたこと。私の中で、大月さんの存在が大きくなっている。