紫陽花ロマンス
仕事が終わったら、フードコートで待ってると大月さんは言ってた。また、アイスクリーム屋さんの辺りだろう。
足取りが速くなってしまうのを抑えながら、一歩ずつ踏みしめる。心を落ち着かせながら。
私が楽しみにしてたんじゃない、大月さんが誘うから仕方なく承諾したんだ。
私は大月さんに付き合うだけ……
フードコートが見えてきた。
胸がぞわぞわしてくる。
テーブル席にはお客さんがいっぱいで、空いてる席はなさそうに見える。この中に、大月さんは埋れてしまってるんじゃないかと思ったのに。
大月さんがいた。
奥の方の席で、頬杖をついて通路を流れる人たちを見送っている。
その表情を見て安心した。
以前のように寂しそうで痛々しい表情ではなく、晴れやかだったから。
大月さんが、私を見つけて手を振る。
私も手を振り返した。
大月さんが、にこりと微笑む。
私も微笑んだ。
無意識に。
それに気づいたのは、大月さんが嬉しそうに歯を見せて笑ったから。
慌てて口を噤んで、澄ましてみせる。
手遅れだとわかっていたけど。
悪あがきだとわかっていたけど。
大月さんが笑い出す。
堪えきれないように、嬉しそうに。