紫陽花ロマンス
彼女の腰に腕を回した彼。べったりと寄り添いながら、二人が歩いてくる。彼を見上げて彼女が笑う。彼の肩にもたれ掛かって。
見たくないものを見てしまった。
まさか、こんなところで。
真ん前から歩いてくる二人は、元旦那と略奪した後輩。
今さら方向転換なんてできない。
不自然だし、もし見られていたら私が逃げてると思われそうで悔しい。
私は負けたんじゃない。
悔しさが込み上げてくる。
胸の鼓動が速くなって、抑えられなくなっていく。
堪えようと固く握り締めた拳に、温もりが触れた。
「手を貸して」
大月さんが耳元で囁く。
強引に指を滑り込ませて拳を開かせると、私の指に大月さんの指が絡みついた。手のひらが重なり合って、ぎゅうと握り締められる。
そのまま引き寄せられて、大月さんの腕が密着した。見上げようとしたら拒むように、
「萩野さんの手、あったかくて気持ちいい」
と大月さんが頬を寄せてくる。
息遣いが耳に触れて、こそばゆい。むしろ、心地よく感じられるほど。