紫陽花ロマンス


「そんなことない、ガサガサだし……大月さんの方が温かくて気持ちいいよ」


そっと見上げたら、大月さんの笑顔。


胸の真ん中に、淡い火が灯る。
再び前を向いた。


元旦那と後輩の姿がない。どこか店に入ったのかと視線を泳がせる。


「振り向かないで、そのまま前を向いて歩いて」


大月さんに言われて、二人とすれ違ったのだとわかった。


そうか、大月さんは気づいたんだ。
私が見たくないものを見てしまったことに。元旦那と略奪した後輩を見て、動揺する私に。


だから、手を繋いでくれたんだ。


元旦那と後輩が、私たちに気づいたのかは知らない。どうせなら、二人に見せつけてやりたいと思った。


「もう少し、このままで居てもいい?」


大月さんは問い掛けて、ぎゅうと握り締めてくれる。力強さが優しくて愛おしい。


「うん、いいよ」


笑顔で答えた。
もう恥ずかしくない。


じんと胸が熱を持ち、身体中が幸せに満たされていく。


もう、認めてしまおうよ。
強がっていた自分に呟いた。


この人と一緒にいたいと。






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