紫陽花ロマンス


「小洒落た店を知らないから、口コミサイトで探したんだ」


と連れて行ってくれたのは、霞駅近くのイタリア料理屋さん。


正直なところ驚いた。
以前に会社の元同僚の里穂と、ランチに来た店だったから。


大月さんに来たことあるとは言えず、


「知らなかった、こんな店があったんだ」


と、とぼけてみせる。
でも確かに味はよかったし、昼と夜のメニューは違うから楽しみ。


「よかった、喜んでもらえて。さて、何食べようか」


メニューを広げて、大月さんも嬉しそう。そう思えるのが、私の勘違いでなければいいのに。


お酒は飲まない。
この後で車を運転して、実家に光彩を迎えに行かなければならないから。


大月さんもわかっていてくれたみたいで、お酒は勧めない。大月さんも飲まない。私に気を遣っているのだろうか。


「大月さんは、お酒飲めるの? 晩酌とかしてるの?」

「うん、飲めるけど少しだけ。晩酌はしないよ、ひとりで飲むのは寂しいし。友達とか職場の人と飲みに行くぐらい」


ということは、酔った勢いとかいうことはあり得ないんだ。


元旦那とは違う……
って、いちいち比較してしまう。
もう、止めなくちゃ。




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