紫陽花ロマンス
駅に着いた頃には、すっかり息が上がってしまっていた。まだ雨は上がらない。
これで、やっと変な人と別れることができる。
ほっとして大きく息を吸い込んだ。振り向いて一礼。半身びしょ濡れの彼から目を逸らすように。
「ありがとうございました」
私が悪いんじゃない。
彼が好きで濡れたんだから。
彼が濡れたのは、私に傘をかざしてくれたから。私に傘をかざしてくれたのは、彼が私の傘を壊したから。
悪いのは彼でしょう?
何度も言い聞かせるのに、彼の濡れた半身をできるだけ見ないようにしてるのに、胸がもやもやしてくる。
見ないようにしている視界の中に、きっちりの映り込んでいる濡れた彼。なんだか、私が悪いみたいに思えてきて。
「ごめんなさい、濡れちゃいましたね。これ、使ってください」
あまりにも彼が不憫で申し訳なくなってきて、自分でもよくわからないうちにハンドタオルを差し出していた。