紫陽花ロマンス


「萩野さん、じゃなくて名前で呼んでもいい? 美空って呼ばせて」


大月さんの口から発せられた私の名前は、聞き慣れなくて変な感じ。
だけど、確かに胸が弾んでいる。


「うん、呼んでよ。私も呼んでいい?」


と言いながら、大月さんの名前を辿る。以前に貰ったメモに書かれた名前は……


「いいよ、桂一でも桂でも呼びやすいように呼んで」


私が思い出す前に、大月さんが言ってくれたから助かった。


実は前に貰ったメモはバッグに入れたままだし、名前をちゃんと覚えてなかったから。


それに大月さんと、こんな展開になるとは思ってなかったから。


「じゃあ、桂一……さん?」

「『さん』はいらないよ、桂一でいいって」

「桂一、ありがとう」

「美空、ありがとう。これからもよろしくね」


握り締めた手に、ぎゅうと力がこもる。


普通なら、このままキスでもしそうな雰囲気なのに、そんな素振りもない。そこが、桂一のいいところなんだと思う。


きっと他にも、桂一のいいところはあるはず。


これから私は、いくつ見つけられるのかな。





ー完ー






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