紫陽花ロマンス
2. ひとりじゃない
霞駅から電車に揺られて五分足らずで、月見ヶ丘駅に着く。改札口を出ると、すっかり雨は上がっていた。
電車の窓から眺める空が明るくなり始めていたから、想像していたとおり。
本当に通り雨。
私の帰りを狙って降ったのは明らかだ。嫌がらせだと思うのは被害妄想かもしれないし、思うほどに腹立たしさは増すけれど、この気持ちをぶつける当てもない。
とりあえずは、さすが雨女だと自分を褒めておこう。随分明るくなった空を見上げたら、溜め息が漏れた。
しかし、ツイてなかったな……雨は降るし、傘は壊れるし、変な人に絡まれるし。
あんな馬鹿正直な人もいるんだ。
私と同じ年ぐらいの変わった人。だけど、下心があるような悪い人には見えなかった。
ふと浮かんだ彼の顔を、慌ててかき消す。
もう男の人には関わるものか。
負けたりしない。
私は自分の足で歩いていくんだ。
念じた言葉は、雨雲と自分に向かって。
ぽっこりと膨らんだバッグの中には、壊れた傘の入ったビニール袋を突っ込んでいるから。収まりが悪くて気になるけど、うんと力を込めて歩き出す。
愛しい我が子が待っている。