紫陽花ロマンス
駅から歩いて三分にある市立月見ヶ丘保育所。幼稚園と小学校も隣接して、すべて私の母校でもある。
門の上部のロックを外す音を聴きつけた所長が、保育所の建物の中からこちらを見て挨拶をしてくれる。ドアを開けているうちに、教室から担任の先生が顔を覗かせた。
「おかえりなさい、雨は大丈夫でした? 急に、すっごく降り出したからビックリしましたよ」
娘の担任の西条先生が、目を見張って私を迎えてくれる。先生の腕の中には愛しい娘。
「ありがとうございます、ちょうど店を出ようとした時に降り出したんですよ。でも、折りたたみ傘を持ってたから助かりました」
答えている間に、先生に抱っこされている娘が私へと手を伸ばす。眉間にシワを寄せて、早く早くと。
「光彩(みさ)ちゃん、今日はよく食べましたよ、ホントに白いご飯が大好きですね」
「はい、家でもおかずよりも白いご飯ばかりで……」
手を差し伸べると、光彩は手繰り寄せながら私の元へと。細い腕にぎゅうと力を込めて、匂いを確かめるように顔を私の腕に擦り付ける。
この腕に感じられる確かな重みが、愛しくて堪らない。