紫陽花ロマンス
保育所の建物を出て、勝手口のそばにある駐輪場へと向かう。
先生の自転車やバイクが並ぶ中、端に置いてあるのは光彩のベビーカー。光彩を連れてきた後、仕事に行くから帰りるまで置いてもらっている。
とりあえず光彩の荷物の入ったバッグを地面に置いて、力一杯ベビーカーを広げた。片手には光彩を抱いたまま。
「はい、みいちゃん、ごろんして帰ろうね」
ベビーカーに座らせようとするのに、光彩は私の腕にしがみついて離れない。何も言わないけど眉間にシワを寄せて、嫌だと全力で訴えてる。下ろさないで、抱っこしていて欲しいと。
こうなったら、どうしようもない。無理矢理に引き剥がしたりしたら、大泣きし始めるに違いない。保育所の先生が、何事かと飛び出してきたりして。
「わかったよ、明日はちゃんと座ってね」
光彩の代わりにトートバッグを座らせる。途端に光彩の表情と腕が緩んでいく。まったく、わかりやすいんだから。
片手に光彩を抱き、もう片手でベビーカーを押しながら歩き始めた。
今年一月に、光彩は一歳になった。今月で一歳五ヶ月、体重は八キロになっている。いつの間にか、実家で飼ってる猫よりも重くなっていた。
ずっしりと腕に感じるのは、光彩を守るべき私の責任の重さ。