紫陽花ロマンス


ようやく、自分の時間。


リビングのソファに腰を下ろそうとして、ソファの上に置きっ放しだったバッグに目が留まった。


そういえば家に帰ってから、まだバッグさえ開いていなかった。だって何かと忙しかったし、自分のバッグよりも光彩の荷物の入ったトートバッグの方が優先順位は上だから。


おかげで今日使ったハンドタオルを洗濯し忘れたし、壊れた折り畳み傘も、まだバッグの中に入ったまま。早く出しておかないと、バッグの中まで湿っぽくなりそう。


でも、どうしよう?


壊れた傘を治すべきか、捨てて新しいのを買うべきか……と考えながら、バッグの中から折り畳み傘の入ったスーパーのビニール袋を取り出す。


するとビニール袋と一緒に、くしゃりと丸まった紙切れが飛び出した。


見た瞬間に思い出したのは、傘を壊した彼の顔。いつでも弁償するから連絡してと言って渡された紙切れが、床に転がり落ちる。


本当に、変な人だった。
あんな馬鹿正直な人を、今まで見たことない。彼の本心なのだろうか、それとも下心があると思ってしまうのは私の自惚れか。


さほど高級な傘でもないから連絡することはないだろう。
とっとと捨ててしまおう。




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