紫陽花ロマンス


拾い上げた紙切れを、くしゃっと握った。同時に、バッグが震え出す。
絶妙なタイミングに驚いたけど、すぐに携帯電話の着信を告げるバイブ音だとわかった。


「美空(みそら)、雨大丈夫だった? お母さん、ちょうど買い物行っててね、建物の中だったから全然気づかなかったんだけど、外に出たらびちゃびちゃだったから……」


受信した途端に、まくし立てるような勢いで一方的に話す母。決して怒っている訳じゃなくて、ただ声が大きいだけ。


だけど漏れた声が寝ている光彩にまで聴こえるんじゃないかと、寝室を振り向いた。


大丈夫。
光彩は、ぐっすり眠っている。
可愛い寝顔を見た途端に、顔が緩んで口角が上がるのがわかる。


私って、親バカだな……


「うん、大丈夫。店から霞駅に行くまでの間だけ、かなり降られたけど、月見ヶ丘駅に着いたらすっかり上がってたから」


笑いながら返した。
光彩の寝顔を見ながら。
思いきり、緩んだ顔で。


母は光彩を迎えに行ってから、家まで歩いて帰らなければならない私を心配してくれていたらしい。本当に心配なのは私でなく、光彩かもしれないけど。




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