紫陽花ロマンス
やっぱり、今日は長い傘を持ってくるべきだったのかなぁ……と少し後悔。
きっと夕立だから少し待てば止みそうだけど、そんな時間はない。早く帰らなければ、私を待ってる人がいる。
時刻は17時15分。
この雨の中、私は出て行く決意をした。続々と店内へと入ってくる人波に逆行して。
一つ目の自動ドアを抜けたら、耳鳴りのような雨音。平衡感覚がおかしくなったみたいで、目眩に襲われた。
二つ目の自動ドアを抜けたら、さあっという音が私を包み込む。
耳を塞がれたような閉塞感と、周りから遮断されたような感覚は一瞬。すぐに路面を叩きつける激しい雨音が、急き立てるように耳に飛び込んできた。
痛そう……
声に出さないけど、心の中で呟く。
雨で霞んだ視界の向こうで、路面で踊る水しぶきが白く舞い上がっている。
足が止まって動けない。
こんな所に出て行かなければならないのか。
もちろん雨が降るとは思っていなかったから、レインシューズなど履いていない。ごく普通のローヒールのパンプス、合皮なのがせめてもの救いなのかな。