紫陽花ロマンス
「そうだ、今度の日曜日にお父さんがね、みいちゃんを水族館に連れていってあげるって言ってたわよ」
両親は結構出かけるのが好きだから、光彩を連れてあちこち出かけている。
「いいなあ……私も行きたいかも」
「美空は仕事でしょう、かわいそうだけど、また今度ね」
「あれ? 日曜日、充(みつる)が彼女連れてくるって言ってなかった?」
「ん? あ、それはまた今度でいいって……」
電話の向こう、母の態度がおかしい。
さては彼女に会うのが嫌だから、出かける予定をわざわざ作ったのかもしれない。深く突っ込むのはやめておこう。
「ふぅん……そうだ、来週の土曜日ね、仕事休みだけど里穂にご飯食べに行こうって誘われてるから、みいちゃん預かってもらっていい?」
里穂は前に勤めていた会社の同期の友達。私と違って、まだ頑張って仕事を続けている。
「あら、里穂ちゃんの名前聞くの久しぶりね、いいけど、なるべく早く帰ってきてね」
「うん、ありがとう。じゃあ、おやすみなさい」
里穂に会うのは久しぶり。
会社で何かあったのかな。それとも、ついに結婚を決意したのかもしれない。
憶測を巡らせる私は、握っていた紙切れがどこかに消えていたこともすっかり忘れてしまっていた。