紫陽花ロマンス
あんなに見上げて、首が痛くならないのだろうか。心配してしまうけど、声を掛ける勇気は私にはない。
それに、何よりも恥ずかしい。
困ったように見えるけど、本当は自分なりに探していて困っているわけじゃないかもしれない。声を掛けて不審者に間違われても嫌だし。
すると若い男性がおばあさんに歩み寄って、ごく自然に話し掛けている。
おばあさんは少し驚いた様子だったけど、すぐに顔を綻ばせて何かを告げた。わかったと言うように頷いた男性は、おばあさんの手から荷物を受け取って券売機へと促す。
おばあさんは無事に切符を買うことができたらしい。礼を言うおばあさんと男性は少し話した後、男性は荷物を下げたまま一緒に改札口へと入っていく。
その時、男性の顔がちらりと見えた。
「あ……」
驚いて、思わず声が漏れる。
私の傘を壊した男性だ。
話しかけるおばあさんに、にこりと笑顔で頷きながら男性はホームへと上がっていった。