紫陽花ロマンス
彼と入れ替わるように現れたのは里穂。
人懐こい笑みで駆け寄る里穂の目元は、前に会った時よりもキラキラしている。まつエクの本数が増えて長くなって、綺麗になってる。
私たちは里穂が以前に行って、美味しかったという駅前のイタリア料理屋さんへ。
「里穂、また綺麗になったね。そろそろ結婚決めたの?」
席に着いて注文を済ませると、待ちきれなくて訊ねた。
悠々と水を飲んでいた里穂はグラスを置いて、恥ずかしそうに頬を染める。
「うん……一応親に会って、そっちの方向には進んでいるんだけど、具体的にはまだ……」
「どうして? 彼は協力してくれてるんでしょう?」
「それはそうだけど、いざ結婚って向き合ったら怖くなってきて、ゆっくりでもいいかな……って」
と言って、グラスを持つ里穂の指先がきらりと輝く。綺麗にアートが施された爪には、細かいストーンが散りばめられている。
視線を落としたら、短く何も塗ってない私の爪。軽く手を握ったら、かさついた指先。
何か違う。