紫陽花ロマンス



里穂と私はT重工の同期入社。
T重工は大手企業だし、事務職で土日祝休みだったし、待遇はよかった。


私は社内恋愛で結婚、出産を機に退職して専業主婦の道を選んだ。


「こんな話聞きたくないかもしれないけど、関口君、子供が出来たらしいよ」


自分のことをさておき、里穂が口にした名前に胸を貫かれた。


関口君は私の一つ年下の元旦那で、光彩の父親。


光彩を出産後、半年で彼と別れた。原因は彼の浮気、相手は社内の私の二年後輩の女の子。


一度目はまだ私が職場に居た頃、社内の人から噂を聞いて彼を問い詰めた。


彼女は泣きながら謝り、彼は『二度としない、いい父親になる』と必死に訴える。妊娠中だから彼は寂しかったのだろうと、その時は許した。


しかし光彩が生まれて半年後、再び浮気が発覚。


関口君の携帯電話にメールの着信、画面に表示された名前が見えてしまった。相手は一度目と同じ後輩。


彼は必死に隠そうとしたけど、もう問い詰める気にもなれなかった。


『そうなの?』と訊ねたら『そうだよ』とあっさり認めて、もう訴えない。


一気に冷めて、もう終わりだと悟った。



< 36 / 143 >

この作品をシェア

pagetop