紫陽花ロマンス
雨を避けながら、空を見上げた。
真っ黒な雲が一面覆った空からは、大きな雨粒がとめどなく零れ落ちてくる。よくもまあ、あの雲はこんなにも雨を貯めていられるものかと感心してしまう。
ここから最寄りの霞駅までは歩いて10分ほど。駅に着く頃には、どれぐらい濡れているのだろう。
想像したら、笑ってしまいそうになって気がついた。さっき必死で店内へと逃げ込んだ人たちの表情と、今の私の表情は同じ。
覚悟を決めて、ゆっくりと折り畳み傘を開く。
ぱっと視界が明るくなる。
淡い紫色の傘。
ショッピングモールの入口横の花壇に咲いている紫陽花の色と、私の傘の色が重なった。紫陽花との微妙な色のグラデーションを見ていたら、なんだか嬉しくなっていく。
雨の憂鬱が、少しずつ和らいでいく気がして。気持ちだけでも晴れていくような気がして。
ショッピングモールを出た先の交差点へと目を向けると、ちょうど横断歩道の信号が青に変わったところ。
傘を掲げて、思いきり飛び出した。