紫陽花ロマンス


「そうだ、結婚式の日には、私が必ず長い傘を持つから安心してね、絶対に雨降らさないから」

「そう、それは絶対にお願いしなきゃね、いくらカラッと晴れてても長い傘は忘れないでよ」


笑っていると、ようやく料理が運ばれてきた。温かな匂いが満ちて、待ちきれないとお腹が催促し始める。


「美味しい、里穂はいい店知ってるよね」

「うん、実はね、彼が調べて連れてってくれたのよ」


舌鼓を打ちながら、里穂がぽろりとのろける。頬を染めた顔には幸せが溢れていた。


「さすがだね、やっぱりいい彼氏だよ」


羨ましいと思った。


だけど、私はもう結婚も男性もいらない。欲しいとも思わない。


私には光彩がいる。
光彩さえ居てくれればいい。


私は光彩のためだけに、母として強く生きていくんだと決意したんだ。


他には何も望まない。



< 41 / 143 >

この作品をシェア

pagetop