紫陽花ロマンス


私に残されたのは、彼と一緒に住んでいたマンション、霞駅から徒歩二分の好立地で３ＬＤＫ。結婚した時に新築で購入した。


そのまま住んでいてもよかったけど、売ってしまった。彼と一緒に住んでいたと思うと気持ちが悪かったし、早く忘れてしまいたかったから。


それから今のアパートに引っ越した。
両親は実家に帰ってきてもいいと言ってくれたけど、それは出来なかった。


弟には結婚を前提に付き合っている彼女がいると、両親に打ち明ける前から知っていた。


それなのに私が光彩を連れて転がりこんだりしたら、何かしら障害になるに違いない。弟とはいえ長男だから将来同居する可能性もあるし。


霞駅前のマンションは、それなりの金額で売れた。そのお金を食い潰すわけにはいかない。光彩の将来のために蓄えておきたいと思って、働くことを決めた。


元々働くのは嫌いじゃない。むしろ毎日何かに追われて、忙しく動き回っている方がいい。


嫌なことを思い出さなくて済むから。


だから、なるべく忙しい仕事を探した。ぼーっとする時間が長い仕事よりも常に動いていて、あっという間に時間が過ぎてしまうような仕事。




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