紫陽花ロマンス
悩んでいたら、宇部さんがポケットに手を入れてごそごそし始めた。
「私の自転車使いなさいよ、従業員の駐輪場に停めてあるから。これと同じミッフィーのシール貼ってるピンク色の自転車、見たらすぐにわかるよ」
ポケットから取り出した鍵には、大きなミッフィーのキーホルダー。宇部さんはミッフィー好きだから、なるほどと思った。
自転車は思っていたよりも濃いピンク色だったから、駐輪場で一番に目に着いた。ミッフィーのシールにも納得。
自転車に乗るのは久しぶりだったから不安だったけど、ブランクがあっても意外と乗れるものだ。
梅雨の晴れ間、青い空の下で風を切るのは気持ちいい。紫外線なんて気にしてられない。
郵便局は大通りから、一筋入った通り沿いにある。この辺りの本局だ。
少し待たされたけど想定内。用事を済ませた私は、ショッピングモールに戻るため大通りに向かって自転車を走らせる。
大通りに出る交差点の手前、ふと反対側の通りへと目を向けた。
誰かに呼ばれたわけじゃない。
ただ何となく。