紫陽花ロマンス


余計な飾り気の無い、淡いピンク色の外壁の綺麗な建物。私が光彩を出産した産婦人科だ。


懐かしさが込み上げる。
光彩の生まれた日のことが鮮明に蘇り、愛おしさに胸が熱くなった。


ペダルから足を離して、惰性に任せながら通り過ぎていく。髪を揺らす風が優しい。


すると、通りに面した入り口の自動ドアがさっと開いた。


出てきたのは、仲睦まじく肩を寄せ合うカップル。笑顔で見つめ合いながら、何か話している様子。


思わず息を呑んだ。


震え出す唇を噛み締める。


間違いない。
あれは元旦那と浮気相手の後輩だ。


後輩がお腹に手を翳して、元旦那に何か話している。白い歯を見せて、肩にもたれ掛かる仕草で。


妊娠しているのは本当だったんだ。


すぐに目を逸らして、ペダルに足を掛けた。


ぎゅっと唇を噛んでも、胸の奥から込み上げてくる感情を抑えられなくなってくる。





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