紫陽花ロマンス
全力でペダルを漕いだ。
もう空を見上げてる余裕なんてない。
忘れ去りたいのに、さっきの二人の姿は頭の中に焼き付いたまま。どんなに速く走っても、消えてくれそうにはない。
込み上げてくるのは、負の感情ばかり。
自分が汚れた感情に支配されていくのが、はっきりとわかっているのに抑えられない。
できるなら考えないでいたいと閉じ込めていた気持ちまで、芋づる式に溢れてきて止められない。
だんだん景色が滲んでくる。
真昼間なのに、どんどん視界が悪くなっていく。
歩道の端の大きな段差に気づくのが遅れて、勢いよく自転車で突っ込んだ。がくんと一気に落ち込む衝撃とともに、自転車の前篭に入れていたバッグが飛び出す。
緩やかな弧を描いて、バッグは車道へと放り投げられる。まるで、スローモーション。
地面に叩きつけられる痛々しい映像が浮かんで、目を閉じた。
閉じた瞼から涙がこぼれ落ちる。
こんな時にこそ、雨が降ればいいのに。