紫陽花ロマンス
「自信持ってよ、君はエラいって」
穏やかな声が胸に染みてく。
もう、涙が止まらない。
彼はハンドタオルを差し出して、
「これ、使ってよ。大丈夫、濡れたら使おうと思って入れてたから、まだ使ってないよ」
と言って、また微笑んだ。
彼は私の傘を壊して、弁償すると言ってくれた人。駅でおばあさんの荷物を持ってあげてた人。ベビーカーを押したお母さんを助けた人。
それだけで、いい人と決めつけられないのはわかってる。本当にいい人だなんて、わかるわけない。
だけど、この人の声は温かい。私の凍りついた心を内から溶かしていく。
好きとか、そんな気持ちじゃない。
そんな気持ちは、私にはない。元旦那と別れた時に、一緒に捨ててきたのだから。
ただ、安心できる。
だから打ち明けてみたかった。
この人が、どんな反応をするのか。
試してみたかったんだ。