紫陽花ロマンス
パタパタと軽やかな足音とともに、リビングのドアが開く。
「おかえりなさい」
出迎えてくれた母は、にこやかな笑み。
「ただいま」
と返して、わざとらしく土間のパンプスに視線を落とす。母はにっと笑った。
「充が彼女連れてきてくれたの、もうすぐご飯出来るから、ね」
声を弾ませる母はご機嫌だ。
彼女に会うことに抵抗があったようだけど、会ってみたら息が合ったらしい。よかった。
「あのね、みいちゃん寝ちゃったのよ、ほんの三十分ほど前なんだけどね」
母が申し訳なさそうに言う。
「うわ……こんな時間に? ご飯前なのに……」
今頃の時間に寝られたら困る。何時に起きるかわからないけど、九時までに寝させられないだろう。いっそ朝まで寝ててくれてもいいのに。
「うん、遊び疲れたみたい」
ふうと溜め息。
靴を脱ぎながら、玄関の横の壁に掛けられたカレンダーに目が留まる。
充が彼女を連れてくると言ってた日曜日の暦は大安。今日は土曜日、暦は大安だ。
なるほど、充なりに狙っていたらしい。