紫陽花ロマンス


母の後に続いてリビングに入る。


だけど、思った以上に緊張する。
母の気持ちがようやくわかった。


彼女に会うのは初めてじゃない。


充とデートでショッピングモールに来ている時に、何度か見かけたことがある。その後、月見ヶ丘駅でひとりでいるところも。おそらく仕事の帰り、充と待ち合わせていたのだろう。


挨拶程度は交わしたことはあるけど、こうして改まって……となると気恥ずかしいものだ。


何の心の準備もないまま、母が私の前から退いた。


ソファの隅にちょこんと座っている彼女が、私の姿をみとめて立ち上がる。


「おかえりなさい、お邪魔しています」


女の子らしい跳ねるような声が、僅かに上擦っている。深く頭を下げると、綺麗に腰まで伸びたまっすぐな髪がふわりと揺れた。


やっぱり可愛い。
全然汚れてない感じ。


「姉貴には朱理(あかり)と会ったことあるだろ? もう挨拶はいいよ」


照れ臭そうな充が、朱理ちゃんのスカートの裾を引っ張る。


充には勿体ない。




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