紫陽花ロマンス


ふとリビングの隅へと目を向けた。


父が横になった隣に小さな布団が敷かれて、光彩が寝ている。気持ち良さそうに両手を挙げて。


テレビを観ているのかと父の顔を覗き込んだら、うとうととしている。


「お父さん」


小声で呼び掛けると、びくっとして目を開けて口元を拭う。大丈夫だよ、ヨダレは出てないから。


「いつ帰ってきた? みいちゃん、ついさっきまで機嫌良く遊んでたのに、ぱたっと寝てしまってなあ」

「うん、お昼寝しなかったんでしょう?」

「ああ、昼ご飯食べた後、ジイと昼寝しようって部屋に連れてったのに、全然寝ないで今まで遊んでた」

「やっぱり……」


保育所で過ごしている時は、お昼ご飯を食べた後すぐにお昼寝の時間になる。休日もなるべくペースを崩したくないけど、仕方ない。どうしても遊ぶ方が優ってしまって、お昼寝する雰囲気にならないから。


「ジイの抱っこが気持ちよかったんだ、なあ、みいちゃん」


と言って、父が娘の頬にチュッと唇を寄せた。


娘の目元がピクリと動いて、口がへの字に曲がる。慌てて父が離れて胸をとんとん叩いてあげると、再び穏やかな顔に戻った。



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