紫陽花ロマンス


日曜日のショッピングモールは買い物客が多くて、通路にも人が溢れている。その真ん中に、ぽつんと立っている彼はかなり邪魔で不自然でしかない。


エスカレーターを降りた私は、通路を歩く人の邪魔にならないように壁際に身を寄せた。ここから彼を窺うことにして。


熱心に何かを見ているようだけど、いったい何を見ているんだろう。


彼の視線を追ってみる。


彼の見ている方向には、複数の飲食店が並んだフードコートがある。


今の時間帯は夕食を摂る人たち。好きな店舗で好きな物を買ってきて、席に着いて食べている。一見すると、席は満席のようだ。


この中に何があるのか、誰がいるというのか。うんと目を凝らした。


くれぐれも気づかれないように、さりげなく。まるで探偵にでもなった気分。


いったい何をしているのか、
自分でもよくわからない。


彼は全然関係ない人なのに。


ただ私の傘を壊して、弁償してくれると優しく声を掛けてくれただけ。私が恥を晒してしまっただけ。





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