紫陽花ロマンス
彼の視線は、確実に何かを捉えている。
それが人なのか、物なのか。
わからないけど、知りたくて堪らなくなっていた。
もうひとつ、わからないのは私が知りたい理由。
彼が、きゅっと唇を噛んだ。
表情を強張らせて。
たぶん、あれだ。
視線の先には、一組のカップル。
二人とも私と彼と同じ年ぐらいで、アイスクリームのカップを手にして顔を見合わせて笑っている。
肩を触れ合わせながら歩く二人は、いかにも仲睦まじそうに見えて羨ましいほど。
あの男の人の顔、どこかで見たことがあるような気がするんだけど……
そうだ、昨日自転車の篭から飛び出したバッグを拾ってくれた人。正確には、落ちそうになったバッグを受け止めてくれた人。
二人が人波に紛れて遠ざかっていく。