紫陽花ロマンス
二人を追う彼の目は、とても哀しく見えた。私に話し掛けた時とは全く違う、愁いを帯びた眼差し。
それは単に知っている人に対するものでも、気づいた時のものでもない。彼の顔に滲んでいるのは、深い哀しみと諦め。
何となく、察しがついた。
彼とあの二人の関係。
二人に対する彼の思い。
だとしたら、私に話し掛けた彼にやましい気持ちなんてあるはずない。単なる私の自惚れでしかなかったんだ。
じんと胸が痛んだ。
自意識過剰な自分に対する恥ずかしさと、もうひとつ。胸の奥で疼いている気持ちがある。
ひとつ深い溜め息を吐いて、彼が振り返る。
もう、目を逸らすことさえ忘れていた。
彼がふわりと微笑む。
何事もなかったように、今見たものを振り切るように。
通路を行き交う人の流れを天の川とすれば、挟んで見つめ合う私たちは牽牛と織女か。
彼とは特別な関係でもないし、お互いにそんな感情は持っていないのに。頭に浮かんだのは、まったくおかしな例えだとわかっているのに。
天の川を渡るように、ゆっくりと歩き出す。