紫陽花ロマンス


「願い事、僕たちも書いてみる?」


彼が長机を指差した。ちょうど二人分の席が空いている。私の返事を聞かないまま、彼は長机へと向かって歩いてく。


「子供さんの願い事じゃなくて、今度は萩野さんの願い事ね。僕は何を書こうかな」


と言って、ペンを渡された。


そんな事を言われても……


私の事といっても、やっぱり一番に願うのはこれしかない。最もありふれているけど。


『家族みんなが健康でありますように』


「よし、できた」


書き終えると同時に彼の声。


彼が満足げに微笑んだ。見せてくれた短冊に書かれた言葉に、胸が締め付けられる。


『周りの人たちが、みんな笑顔でいられますように』


彼の周りにいる人の中には、私も含まれているのだろうか。


私に言ってくれていたらいいのに……と、ほんの僅かだけど思ってしまったのは事実。


だけど、知ってる。
この言葉は私ではなく、彼の見ていたカップルに向けられていることを。




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