紫陽花ロマンス
目的地が決まらないまま電車に乗る。
あれこれ考えているうちに、電車は霞駅を通り過ぎて、次の南町駅に停車するところ。なんとなく降りるタイミングを失って、次の夕霧駅へ。
夕霧駅で降りて、駅前の商店街へと向かった。
あまり来たことはないけど、昔ながらの雰囲気が漂っている。月見ヶ丘駅前の商店街とは違って、飲食店は少ない。月見ヶ丘駅には企業が多いから、帰宅時の会社員を狙っているからかな。
ぐるりと一回りしたけど、金物屋さんや鞄屋さんはあるのに傘屋さんはない。
仕方ない、今日は諦めよう。
いや、今日も諦めよう。
今度の休日に少し遠くの百貨店にでも出掛けようと決めて、夕霧駅へと戻っていく。
優柔不断でも完璧主義とかじゃない。単に妥協ができないだけ。と言い聞かせながら。
駅の近くで、いい匂いが漂ってきた。商店街の中に小さなシフォンケーキの店がある。手ぶらで帰るのも寂しいし、これなら光彩も食べられるとひとつ買った。
腕時計へと視線を落とすと、十七時三十分になろうとしている。少しゆっくりしすぎたらしい。
光彩のお迎えに間に合わない。急いで駅へと駆け出した。