紫陽花ロマンス


月見ヶ丘駅の改札口を飛び出した私の前に、突然壁が現れたから慌てて避けた。というより、危うく通行人にぶつかりそうになっただけ。


「すみません」


顔も見ないまま軽く謝ってすり抜けようとしたら、聴き覚えのある声が降ってくる。


「あれ? 萩野さん?」


顔を上げると思ったとおり、大月さんがいた。目を丸くして驚いた様子だったけど、すぐににこりと微笑みかける。


ワイシャツにスラックス、ビジネスバッグを肩から提げているから仕事の帰りに違いない。私の視線は半袖から伸びた腕へと向かってく。華奢に見えて逞しい腕に。


「今、仕事の帰り?」


私の視線を引き止める。


「いいえ、今日は仕事が休みなので少し出かけてたんです」


と言って、手にした買い物袋に視線を落とした。なるほど、と言うように大月さんは小さく頷く。


「休みだったんだ……今日は子供さんは保育所に預けてるの?」


言われて、はっとした。


そうだ、迎えに行かなきゃ。



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