紫陽花ロマンス


保育所は駅から歩いて三分ほど、その間ずっと大月さんと相合傘。


体が触れるたびに、どうして駅前のコンビニでビニール傘を買うことを思いつかなかったのかと後悔した。数日前に買ったビニール傘も家にあるけど。


しとしとと雨が降ってくる。
私と反対側の大月さんの肩は濡れている。私を気遣ってくれているのがわかって、余計に申し訳なくなってくる。


保育所の門の前で立ち止まり、


「ここでいいです、ここから家までは近いから、ありがとうございました」


と礼を言った。
なるべく素っ気ない風に。


「でも、まだ降ってる。子供さんが濡れるから待ってるよ」


心配そうな顔で大月さんが縋るけど、大丈夫だと言い張って保育所の門を潜った。


『もう帰ってくれていいから』
と心の中で付け加えて。


だって折り畳み傘に三人で入るのは、どう考えても無理でしょう。光彩はベビーカーがあるけど、荷物を提げた私さえ入れる余裕はない。


きっと大月さんにもわかるだろうから、帰っているはず。と思いながらも、何かが胸の奥で引っ掛かっていた。






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