紫陽花ロマンス


光彩を抱えて荷物を纏めていると、担任の西条先生が駆け寄ってきた。何か注意でもされるんじゃないかと、咄嗟に身構える。


「萩野さん、先週末から溶連菌感染症が流行り始めてて、うちのクラスでも今日一人休んでいるんです。光彩ちゃんも気をつけてくださいね」

「わかりました、気をつけます」


返したものの、何に気をつけていればいいんだろう。集団生活の中で、予防なんて無理だろうと思った。うつされないことを祈るしかないと。


保育所の扉を出たら、反対側の壁際に身を隠すように大月さんが立っていた。私に気づいて、ゆっくり歩み寄ってくる。


「荷物、持つよ」


と言って、大月さんが手を伸ばした。


私が肩から提げたバッグは三つ。私のバッグと、光彩の着替えや使用済みオムツの入ったトートバッグと水遊びの着替えの入ったビーチバッグ。


「おかえり、早く家に帰ろうね」


大月さんは私が抱っこしてる光彩に優しく話掛けて、私のバッグ以外の二つを取り上げた。



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