Drive
5-2. 問わない疑問
結局泥のように疲れてみんな寝てしまうのだから、部屋割りなんて特にどうという事も無い。ペンションの白いタオルで頭をこすりながら、石岡は、シャワーを待ちながら寝てしまった森川を見ていた。
『俺と穴瀬になってもがっかりしないでよね』
あの時、森川がそう言ったのはどういう意味だったのだろう?そもそも、何であの時自分はグーパーしようなんて言い出したんだろう。
少なくとも一人になりたかった訳ではなかったけれど、森川と穴瀬が同じ部屋ではない事が少し不自然な気がした。もしもあの時、森川と穴瀬が同じ部屋にになっていたら、自分は隣の部屋で今頃何を考えていたのだろうか。そしてもし、穴瀬と石岡が同じ部屋になっていたら・・・?
水上スキーに乗った穴瀬が風を全身に受けながら目を細めていた顔を思い浮かべた。それから、浮きボートの上で彼がどれほど恍惚と波に身を預けていたか、燦々と降り注いでいる太陽と海の狭間に見た、彼の真剣な横顔と石岡と目があったときに微笑む彼の堪(こら)えたような笑顔が幾度も石岡の脳裏に去来した。
森川は、知っているのだろうか。
石岡が穴瀬を目で追ってしまうことを。そして、石岡以上にその目線の意味を?
ただ美しいものを追ってしまう人間の性なのではないのだろうか。それとも、それ以上のものを求めて、石岡は穴瀬を見ているのだろうか。
胸が鳴る。トトン、トトン、トトン、トトン、とそれは規則的に石岡の胸を内側から打って、石岡は頭を拭いていた手が止まっている事にようやく気付いた。タオルを膝において、自分の胸を押さえた。石岡の心臓の音が、部屋に響いているように思われる。耳を澄ますと、森川の小さな寝息と遠く波の音が聞こえた。ザンッと音を立てて石岡はベッドに横になって、森川を起こすほどの音ではなかったか、少しの間森川を気遣ったが、その様子を伺いながら、いつしか、石岡はゆっくりと眠りについたらしかった。