Drive
7-2. 日焼
日が沈みきった岬の駐車スペースに戻り、レンタカーの運転席のドアに手をかけて森川が待っている。石岡が小走りに近づくと、森川はキーを振りながら
「運転、する?」
と石岡に訊ねた。石岡は森川からキーを受けとってそれが森川への答えのようだった。
森川が車の前を通って助手席のドアのハンドルを握った。森川は一度ハンドルを握りしめたあとに、穴瀬が追いつくのを見つめた。穴瀬が何も言わずに後部座席に向かうと森川は改めて助手席へ潜り込んだ。
石岡がそんな森川をちらりと見やり、そして力強く前を見つめてエンジンをかける。森川はそんな石岡を見て低く笑うと、石岡が少し睨みつけるような視線を森川に送った。その二人の意味深なやり取りに穴瀬はまた取り残されたような気持ちになる。
そのとき、バックミラーごしに石岡と目が合った。石岡の目は夕日の熱を宿したように熱っぽく穴瀬を見てまた前を見つめて車を発車させた。
(面倒がやってくる。)
と穴瀬は思う。
面倒を避けるように、運転席がよく見える後部座席の左側からさりげなく右側に移動すると今度は助手席の森川がよく見えた。森川は左肘を車窓の枠に置くようにして運転席の石岡を見ていた。そして、穴瀬の視線に気付いたように後ろを振り向いた森川が穴瀬を見て微笑む。その微笑を穴瀬は、よく知っているような気もするし、なんだか初めて見るような気もする。森川は前を向いてドリンクホルダーのペットボトルを取って水をゴクリと飲んだ。
「あ。」
「はい?」
「ごめん、これ、石岡のだ。」
森川はドリンクホルダーの左右のボトルを取り替えて言った。
「ああ、いいですよ、どっちでも。」
穴瀬はふと森川の唇を見る。その席からは見えない石岡の唇はどんなだったろうかとふと思う。石岡が運転する車が電灯の少ない街道をひたひたと走る。森川は真っ直ぐ前を向いてこの道の先を見つめている。穴瀬は額をパスンと運転席の背もたれに当てた。面倒がやってくる予感だろうか。胸がどきどきしているような気がする。
3人で過ごした夏休みの最終日。明日になればそれぞれいつもの生活へと戻っていく飛行機に乗る。ボーディングブリッジを飛び出していった石岡の若々しい背中が自分の目の前にあったのは、ほんの数時間前のような気もするのに。でも確かにあった3日間を時折車内に差す街灯に浮かぶ森川の焼けた肌が教えてくれる。夕焼けの中に立っていた石岡も、確かに三日分焼けた肌をしていたのではなかったか。