Drive
13-4.駆動
これは、棄てる。
これは・・・・置いておく。
これは・・・棄てる。
これは、もって行く。
これは、置いておく。
これは・・・・・
好きだった漫画。好きだった小説。何度も読み返す本。好きだったアーティストのCD。よく聴くCD。返し忘れたDVD・・・。
人から貰ったハンカチ、靴下、ネクタイで見につけなかった類。使わなくなった腕時計。いつの間にか着なくなったシャツ。膝が薄くなり始めたパンツ。古臭くなったジャケット。
いつから恋愛が面倒くさくなった?多分最初から。自分を所有したがる彼らになんの期待も与えないように、なんなら嫌な印象を与えるくらいにしないと、いつでもだれでも勘違いをして、どんなに面倒くさかった事か。ちやほやされて気持ちいいなんて思ったことは一度もない。
気持ちのよい距離を保ち続けた森川との恋が終わらせて、確かにこの面倒に飛び込む決意をした。自分とは違う、熱意のある男たちを好きになったのは、彼らの中に確かにあるエンジンと同じように自分の中にも自分を突き動かすエンジンがきっとあるのだと、知りたかったから。彼らがいつか自分のエンジンを掛けてくれるような気がしたからのかもしれない。
森川の優しいアクセルはいつも穴瀬を快感の渦へと連れて行った。いつも同じルートを通って、同じスピードで、その泉へ連れて行く彼の優しいドライブ。不安がない、心地よいドライブ。
そして、そのエンジンよりも自分は、もっと荒いエンジンを選んだ。不安定なエンジンは、いつか発火するのではないかと思うほど激しく、山道というよりも崖のような道を荒々しく真っ直ぐに頂上を目指す。頂点から見下ろす景色を、石岡はどんな風に見ていたのだろう。いつも、いつも、次の山を、次の山を目指して、彼の身体を抱いた男。左右に振られる体が痛い程のドライブ。
そう、自分で決めた事。面倒くさいから逃げた日も、森川と食事する事にした日も、森川と寝ることになった日も、会い続けた年月も。そして、石岡が穴瀬を待っていたあのテーブルで、面倒をはじめる一言を発したのは自分の方だったのだ。
待っていて、と言えるほど自分の気持ちに自信はない。
一緒に行こう、と言えるほど自分の気持ちに自信がない。
でもいつか、もう一度やってみよう、と言えるなら、インドから帰ってきたその足で彼に会いに行く事もできるだろうか。彼を泣かせるのかもしれなくても、正直に、まっすぐにぶつかってみたらいい。彼がいつも穴瀬にそうしてくれたように。