はじまりは政略結婚
突然の政略結婚!?
きらめくシャンデリアと、床に敷き詰められた赤い絨毯。

螺旋階段で二階へ上る途中の踊り場で、眩しいほど輝くゴールドの枠にはめられた姿見。

ゆっくりと階段を上っていき、その鏡に映る自分が目に入って、思わず立ち止まる。

さっきから、すれ違う人のドレスアップした姿に比べると、ドレスこそ上質だけど着られているのがよく分かり、ため息が漏れた。

中心部に位置するこのホテルは、大型なものと比べると規模は半分以下で、当然、宿泊ルームや広間の数も少ない。

だけどその分、外観から内装、それに調度品がアンティークな雰囲気で統一されていて、個性溢れるホテルになっている。

だから、国内外の要人も利用する高級ホテルとして名を馳せていた。

「ねえ、お兄ちゃん。私、帰りたいな……。あまりに、場違いな気がするもの」

今日は、このホテル全体を貸し切って、昼過ぎからパーティーが行われている。

どうやら、有名企業の社長や副社長、それに役職ある人たちが集まっているらしい。

見た限りでは、40代から50代くらいの人が、全体の9割を占めていた。

だから、さっきから私を落ち込ませる原因の女性たちは、その人たちの家族なのだ。

奥さんたちは着物が圧倒的に多く、どこの染めものかで褒め合っている会話が聞こえてくる。

そして、若い恋人や婚約者の人たちは、色とりどりのドレスを身にまとい、色っぽさや華やかさを演出していた。

そんな中で、私は27歳の独身ということもあり、薄いピンク色のマーメイドラインのドレスを着せられている。

このドレスは、海外の有名なデザイナーのもので、兄が選んでくれたもの。

可愛いと褒めてくれたけど、身長が155センチで華奢な体の私は、完全にドレスの放つ大人っぽさに負けていた。

「何を言ってるんだよ。今、来たばかりだろ?そろそろ、親父も来る頃だから、一緒に待っていよう」

ダークグレーのスーツを色っぽく着こなし、深い黄色のネクタイを締めた兄は、普段は自然に流している髪を、今日はキチンと固めている。

それに口数が少なく、どこか緊張しているようにも見えた。

それだけに、このパーティーが兄にとって大事なものだと感じて、逆らうことは出来ない。

「うん……。分かった」

不本意ながらも、渋々歩みを再開させる。

すると、二階に上がってすぐの正面の大広間で立食パーティーが開かれていて、近付くにつれて人の笑い声や話し声が大きくなってきた。
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