はじまりは政略結婚
我ながら、くだらないことを話したと思う。

だけど、動揺を誤魔化したくて、作り笑いを浮かべながらそう言った。

「ああ、それはオレから言ってあるから。由香の顔を覚えとけって」

ニッとした智紀の不敵な笑みも、いつもと同じだ。

「何でそんな命令を……?」

今度は恥ずかしさを隠しながら聞くと、彼は私の側へ歩み寄り、優しく頬に触れた。

「オレの婚約者の顔くらい覚えておくべきだろ? だからだよ」

胸にキュンとくる行動もいつもと変わらないけれど、違うのはきっと智紀ならここでキスをすると思うのに、それがないこと。

やっぱり彼なりに、涼子さんとのキスを気にしているに違いない。

「じゃあな、由香。気をつけて帰れよ。オレは今夜は遅くなりそうだから、気にせず寝ておいて」

「うん……」

頭を撫でられながら小さく頷く私に、智紀は穏やかな笑顔を浮かべた。

だけど、どうして物足りなさを感じるんだろう。

それにどうして、これから帰ってくるまでの彼の行動を、こんなに気にしてるんだろう。
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