はじまりは政略結婚
彼の言葉に青ざめた私は、自分でも笑顔が引いていくのが分かった。

また私、海里と付き合っていた時みたいに、嫌われてしまうの……?

智紀のことは好きじゃなかったはずなのに、拒絶されることを怖いと思っている。

だけど言葉を失った私に、彼が取った行動は……。

「ん……!」

ーーーキスだった。

力強く抱きしめながら、何度も顔を動かして舌を絡めてくる。

きっと引かれたと思っていたから、キスをされたことが完全に不意打ちだ。

「由香は本当に、オレの心をくすぐるんだよな。もちろん、愚痴ならいつでも言うよ。だけどオレがお前の笑顔を見たいんだ。だから、自分も笑ってるだけ」

唇を離し穏やかに微笑んだ智紀は、額と額をくっつけて私を見つめた。

その仕草に、胸はドキドキと高鳴る。

実は人生の中で、まともに付き合ったと言える彼氏は海里だけ。

その彼はけっこうドライな性格だったから、智紀のように真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれることはなかった。

だから智紀の行動は、私の心をかき乱すものが多いのだ。

「本当はもっと一緒にいたいんだ。それに、早く由香の気持ちを確かめて入籍だってしたい。出来るだけ早めに、その話もしような」

「う、うん……」

一回だけギュッと私を抱きしめた智紀は、小さく手を振って玄関を出て行ったのだった。
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