はじまりは政略結婚
「心が踊り出すとか、何かいいことがあったのか?」

クスクス笑いながら、兄は私に並んで歩き出す。

その姿に、普段と変わらない感じを受けて正直ホッとした。

涼子さんとは今のところ、関係がこじれたりはしていないみたいだ。

「お兄ちゃん、聞いてたの?」

ホッとすると今度は、独り言を聞かれていた恥ずかしさが込み上げる。

恨めしく見上げると、兄は優しい視線を返してきた。

「聞こえたんだよ。由香だと思って声をかけようとしたら、ブツブツ独り言を言ってたから。智紀とうまくいってるんだな」

「えっ⁉︎ な、何でそう思うの?」

兄に智紀のことを指摘されると、未だに恥ずかしい。

今までも、海里のことを相談したりしていたけど、智紀は兄の親友だけに、話を突っ込まれると、若干抵抗を感じる。

「だって、指輪。婚約指輪とは違う物じゃないか? いつの間に貰ったんだ?」

チラッと視線を私の薬指に向けた兄の鋭さに、改めて感心してしまった。

だいたい、自分には関係のない婚約指輪を覚えているのが凄い。
< 109 / 360 >

この作品をシェア

pagetop