はじまりは政略結婚
『社長令嬢の由香と付き合っても、得することは何も無かったよな。それに、いつもモサっとしてるお前と並んで歩くのが、恥ずかしいんだよ。もうちょい、垢抜けられないか?』

その言葉は、自信を奪うには十分過ぎて、今まで彼と過ごした時間すら思い出したくないくらいに、私の心を変えてしまった。

そして、ロスでの語学とモデルとしての勉強を兼ねた留学を口実に、別れを告げられたという、思い出したくもない苦い過去があるのだった。

「由香と海里の交際は、未だに大っぴらにはなっていないし、二人のことは涼子すら知らない。だから、何も考えなくていいよと言いたいところなんだけど……」

心ここにあらずの私に呼びかけるように、兄は握った手を少し引っ張った。

おかげで我に返り、その言葉にすぐさま疑問がわく。

「何か、引っかかることがあるの?」

三年前の様な辛い思いは、もうしたくなくて、含みのある言い方に嫌な汗が流れてきた。

「それが、海里の所属する事務所は、智紀とはライバルになるんだよな。その上、この雑誌はうちから発行してる。それで意味わかるか?」
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