はじまりは政略結婚
ゆっくり首を横に振ると、兄は声を潜めて続けた。

「つまり、由香と智紀の政略結婚には、細かい条件も定められていて、今後はこの雑誌のモデルは、あいつの事務所所属のモデルを中心に起用する予定なんだよ」

「そうなの? そんな具体的な条件が、ちゃんと整えられてるんだ……。そうよね、政略結婚だもんね」

智紀の今までの振る舞いまで疑ってしまいそうになり、俯きかけた私に兄は慌てて弁解した。

「ただ、それくらいのことは、普通のビジネスとして取引は可能なんだ。それをわざわざ、政略結婚なんて形にしているのは、智紀が本当に由香を好きだから」

チラッと視線を上げると、兄は苦笑いを浮かべている。

「実は今までに、由香のことを相談されてたんだ。まあ、政略結婚っていうのは強引だったけどさ。でも、そうでもしないと智紀アレルギーのお前には、振り向いてもらえないんじゃないかと思って……」

兄がそう言うなら、きっと真実なんだろう。

思い返せば、智紀が私たちの実家に出入りしていた時に、頻繁に声をかけられていた気がする。

あの時は、彼の気持ちを知ろうとも思わなかったけど……。
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